2009年10月21日水曜日

単調の中の殉教者(中) カウマン夫人


 私は長年にわたって伝道に従事してきましたが、船で何度も大洋を横断したことは、私にとって特権でした。今日では、大きな遠洋定期船は、あらしの時でもなぎの時でも、非常な速度で、確実に針路をはずれることなく航行することができます。航海中、エンジンルームに降りて行き、巨大なエンジンが昼となく夜となく、目ざす港に着くまでは片時も休むことなく活動しているのを見守ることは、最も感動的なことの一つです。喫水線のはるか下にあるエンジン・ルームには、機関員たちがいます。この献身的な船員たちは、何時間もエンジンやボイラーのかたわらに立ち続けているのです。彼らの夜を徹しての働きの唯一の報酬は、強力なエンジンの着実な律動的な活動です。それは実に船の生命であり、船の進行に欠くことのできないものです。

 これらの働き人たちは、航海の初めから終わりまで、人の見ていない所で刻苦し、ごく普通の目立たない自分の仕事に従事しています。彼らは大洋のまん中で、「私たちの仕事はあまりにも単調すぎる。こんなおもしろくない仕事はやめてしまおうではないか」とは言わないでしょう。あえてそのようなことをほのめかす者はひとりもいないのです。こうした忠実な働き人たちは、船長や他の船員にとって、欠くことのできない存在です。彼らの奉仕がなかったら、航海を成し遂げることはとうていできません。

 幾日か過ぎて目ざす陸地が見えてきた時、船長と甲板にいる高級船員だけが、「私たちが船を安全に港まで運転してきたのだ」と言うことができるでしょうか。いいえ、そんなことはありません。そのためには目に見えない所で労している船員たちの隠れた奉仕が必要です。船を安全に入港させるためには、船長と全船員の働きが必要なのです。

 今日、私たちは、はなばなしいことばかり求めています。新聞紙上で重大なニュースだけに目を留めます。魅惑的なものだけを賞賛し、一般の人々のごく普通の活動をほとんど忘れています。陸軍の専門技術家たちによる驚異的な偉業、数えきれないほど多くの人々の内外の政治家たちの巧妙な駆け引き、天才的な科学者の奇跡的な発見、実業界の大物による多額の寄付などに拍手かっさいします。しかし、その背後にあって、静かなしかし有効な働きをし、いわゆる脇役を演じながら、その実人生のドラマに欠くことのできない重要な役割を果たしている個々人およびその業績を賞賛することを忘れています。

(昨日に続いて『一握りの穂』の文章よりの引用である。政権が変わり、華々しい大臣たちの悪戦苦闘ぶりがうかがわれる。しかし、一方、一まとめに悪者呼ばわりされることの多い官僚たちの中にも地味な働きを通して仕えている人たちがあることを忘れてはならない。写真は東京聖路加病院構内のモニュメント。)

何をするにも、人に対してではなく、主に対してするように、心からしなさい。あなたがたは、主から報いとして、御国を相続させていただくことを知っています。あなたがたは主キリストに仕えているのです。新約聖書 コロサイ3・23~24

0 件のコメント:

コメントを投稿