2020年5月4日月曜日
私と「エール」(中)
このところ朝のNHKドラマの「エール」に夢中である。前回の「スカーレット」は夫婦とも滋賀県出身者である私たちにとってはそれだけ身近で、しかも家内は創作好きとあって、陶器づくりに励む主人公に大いに肩入れして、毎回欠かさず観ようとしていた。そこへ行くと私は十回に一回程度の視聴でそんなに熱心でなかった。
ところが今回の作品は、二人して欠かさず見ている。50年の結婚生活にあって初めての経験である。大体仕事をしている時は時間帯が無理であった。「おはなはん」※は学生時代のころであったせいだろう、何となく観たような記憶がある。それ以来、仕事、結婚、子育てと二人ともそのようなゆとりはなかった。
ところで本題の「エール」だが、作曲家古関裕而をモデルにした作品とあって前評判の高かった作品である。ましてや今年はオリンピック開催の年であった。彼の「栄冠は君に輝く」「長崎の鐘』はじめ様々な曲が披露されると思うと、それだけで何か胸あこがれる思いがしていた。私のようにテレビ離れの人間まで引きつけるとは、まことにこの上もないNHK企画だと思っていた。ところが、このコロナ騒ぎである。とうとう先週はコロナ犠牲となった志村けんさんも登場される場面がほんの少しだったが、最後に出てきて哀愁を覚えた。
現在6週間目に入ったところだが、主人公裕一が幼い時から、成人し、「仕事」、「結婚」とどれ一つとっても、若者には一寸先何が待っているかわからない中を、ひたむきに進んでいく姿が活写されていく。しかも、そこに全く別世界に生きていた男女が結ばれていく過程が彼らの音楽に賭けていく苦闘と並行して描かれるのだ。コロナ騒ぎで多くの音楽家が生活の糧を失って苦しんでおられる。しかし、「エール」はまさにその「音楽」が人間の生きる上の一つの活力であることを証明して憚らない。
主人公の男女二人の出会いと交際、そしてそれを取り巻く家族を見ていると、私たちの50年前の七転八倒の一つ一つが同時にダブってくる。先日も、福島在住の主人公裕一が手紙の文通三ヶ月間でこの人(おと・音)しかないと決心し、彼女のいる豊橋まで駆け出して行った姿を大写しで見た時、二人とも思わず顔を見合わせざるを得なかった。私たちの場合も関西と関東と離れていたので互いの意思疎通には手紙しかなく、その文通が二人の中を取り持ったからだ。三ヶ月でなく、三年であった。だから、単純に計算しても、彼らの12倍を要する書簡の往復ではあったが・・・。
そのようにして、互いの家庭から飛び出て、一組の新しい家族が誕生するまでには人間はすさまじいエネルギーを発揮するのだと改めて思った。このエネルギーは、春先に雌雄の魚が産卵期に見せる水の中で飛び跳ねる姿を思わせる。これは生ける神が生きとし生けるものに与えた天与の力だと思う。今私たちはコロナウイルスという見えない敵を相手に、国家としても地域社会としても、また個人としても、各人がそれぞれのレベルで戦いを強いられているように思える。しかし、いつの時代にも難問はあったのでないだろうか。
たまたま、最近私は『歴史人口学事始めー記録と記憶の90年』(速水融著)という本を読んだ。速水さんは100年前のスペインインフルエンザを史書としてすでに2006年にまとめておられるが、そのような歴史考察をもとに、これからの時代は「我慢の時代」(同書293頁)だとそこで語っておられた。一見、何の変哲もない主張のように見えるが、速水さんは「産業革命」に対して江戸期から始まる日本社会の変動を分析し「勤勉革命」(281頁)という独自の歴史概念を提唱され、現在の日本社会の高齢人口の増大、人口減少の時代に見合う主張をなさっている。残念なことに速水さんは昨年12月にこの本の執筆を最後に90歳で急逝されたが、その時、もちろんコロナウイルスの存在は知られなかった。しかし、その直後コロナウイルスはあっという間に世界を席巻し、昨今は政府が「行動変容」を盛んに求めるようになった。こんなことを考えると、速水さんの歴史研究は先見の明があったと言わざるを得ない。
最後に神から私たちに送られている「エール」のことばを記す。
昔あったものは、これからもあり、昔起こったことは、これからも起こる。日の下には新しいものは一つもない。・・・結局のところ、もうすべてが聞かされていることだ。神を恐れよ。神の命令を守れ。これが人間にとってすべてである。(伝道者1:9、12:13)
(言うまでもなく今日の写真は前回に続く子どもたちのエール第二弾である。
なお速水さんの本の紹介は東京新聞の書評がある。一読されたし。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2020041202000176.html
ついでに「おはなはん」は
https://www.youtube.com/watch?v=yizg55xEik4)
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