2010年5月19日水曜日
十七、旗あげ
「吉田さん、Y・M・C・Aの会館を建てる土地は見つかりましたかね。今度シカゴの友人から五百ドルと他の友人たちから千ドルほどもらうことになりまし たし、わたしの今までの貯金とこれからの貯金が合わせて千五、六百円はありますから、合計して会館を建てましょう。図面はわたしが作りました」
わたしは、ヴォーリズさんが図面のひけることをそれまで、少しも知らなかったし、また建築の設計などが、その頭の中にあるなどとは夢にも知らなかった。
八幡キリスト教会の執事をしている西幸治郎さんと千貫久治郎さんは兄弟の牛乳屋さんで、兄の西さんはでっぷりした豪傑風の男、弟の千貫さんはやせた善人型 の人であった。兄弟は織田信長や明智光秀、森蘭丸などで有名な安土城址にほど近い村の、水飲百姓の兄弟であったが、徒手空拳で明治20年(1887)ごろ から牛乳商を始め、八幡町と京都市外の花園村で大きい牧場を経営していた。兄の西さんは明治20年ごろにキリスト信者となって、教会の会計をながく勤めて いた人で、常に会堂を建てよう、会堂が町の中央になければならないといっていた。
「諸君、わたしはキリスト信者の生活は昔の戦争のよう に、堂々と旗をたててやるにかぎると思います。十字架の旗はつまり、“にしきの御旗”です。押したてたら、死んでも巻いてはならんのです。わたしは十字架 の旗を巻いて逃げた信者の末路をたくさん知っています。なにが悲惨だといっても、信仰生活の敗北者ほど哀れなものはありません」
西さん は祈り会に、必ず旗をまくなという。
「神様、わたしは真の罪人です。きょうもつまらぬことに腹を立てました。許してください。ああ、わたしは悪魔のようです。主イエス様、わたしを憐れんで、わたしとわたしの周囲を清めてください。アーメン、アーメン、アーメン」
と真剣に唱えて、震えて 祈るのは弟の千貫さんであった。
わたしは西さんに、ヴォーリズさんの青年会館建築の設計を、教会の集会後に話すと、西さんは、うれしそ うに口を開いた。
「わたしは、今まで、だれにも話しませんでしたが、実は八幡町の中央に二百三十坪の土地を教会堂のために買っておきました。今 のお話は実にわたしの夢の実現です。よろしい。よろしい。あの土地を使ってください。わたしもその土地の西の角に、教会の方々と協力して来年は会堂を建て ましょう。ヴォーリズさんは東の半分に青年会館を建ててください」
西さんは、本当にうれしそうにそういって、長年の夢が現実になってくると感謝して、その場で神に祈りをささげた。
それでいよいよ、ヴォーリズさんはY・M・C・A会館を建てることになった。
(文章は『近江の兄弟』吉田悦蔵著から引用。 ヴォーリズ氏は病を得て、いったん日本から米国に帰った。その刀折れ、矢尽き果てて、尾羽打ち枯らしたはずのヴォーリズさんは病床で次のように言っていた。『吉田さん、私はね、今度帰国したら、お土産に、学生青年会館を八幡町の中央に建てようと思うんです。あなたは、町の中央に土地をみつけてください。私も 少々貯金ができたし、国に帰れば篤志の友人もあるからね。二十人位の寄宿舎と、三百人位の集合する場所をつくりましょう。私はいったんは、近々に日本の土 になると思うたが、何だかまだまだ働けるようになると思う夢をみているんです。お互いに太平洋をへだてて祈りをしましょうね』<十五、往復切符 参照> 。
今日のところはその祈りが聞かれた何よりの事柄でないだろうか。「何事でも神のみこころにかなう願いをするなら、神はその願いを聞いてくださるということ、これこそ神に対する私たちの確信です。」<1ヨハネ5:14>
ウオッチマン・ニーは聖書の「使徒の働き」の記事中に人間にとって最も重要な問題である経済、お金のことが一言も触れられていないことを注目しています。その理由は使徒たちが主なる神様が真実な方であることを体験していて、いつもその主である神の慈しみに信頼しており、経済的な必要がことごとく満たされていたからだと考察し、さらに次のような意味のことを言っています。「働き人の経済的な必要に対する態度こそ、それらの人たちが神様からその使命をいただいているかどうかを試すものです。経済の必要ほど現実的なものはないからです。何事にも理想はありますが、これだけは理想というわけにはいきません。この現実的な問題によって働き人は一番よく試されるのです」<正常なキリスト者の召会生活248頁以降>もちろん、ここで言われている働き人とは「使徒」であるので直接にはヴォーリズさんの働きには該当しないかもしれませんが・・・今後の考察のために一言付け加えました。
写真は昨日東京・西荻のAさん宅のお庭の一角で見かけた紫蘭の花です。いとこは不在でしたが、ご高齢のお舅さんご夫妻と楽しくお話できました。)
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