(ザルツブルクの花 by K.Aotani) |
多くの墓の上にはキリストを表わす頭文字を使った一字記号があった。XとPとが一つの記号になっているのである。あるものにはしゅろの葉の絵が書かれていた。しゅろは勝利と不死の象徴である。神の座のまわりに立つ数えきれぬ群衆の手に持たれるべきあの栄光あるしゅろのしるしである。他の模様が描いてあるものもあった。(中略)
「碑文の中には死んだ兄弟達の性質を語っているものがあります。」
とホノリウスは言った。
「これをごらんなさい。」
〝キシマス――二十三年生く。すべての人の友。〟
〝キリストにあって、十一月五日、すべての人の友、そして憎むもののなかったゴルゴニウスは眠った。〟
「ここにもあります。」
彼は続けて言った。
「これは彼らの私生活や、家庭内での経験を語っています。」
〝夫シリウスは、わが妻シシリア・プラシンダのすばらしい思い出にこれを建てる。われわれは神の子救い主イエス・キリストにあって、十年生活し、一度も互いに争わなかった。〟
〝至高の神キリストに清められたバイタリスは八月の土曜日葬られた。年、二十五歳と八ヶ月。彼女は夫と十年と三十日生活した。初めと終わりであるキリストにあって。〟
〝わたしの最も美しい、最も清い妻、ドミニナへ。彼女は十六年と四ヵ月生き、二年四ヵ月と九日わたしと結婚していた。わたしが旅行がちであったので、わたしは彼女と六ヵ月以上一緒に住んでいられなかった。わたしはその間、思いのままに彼女に愛を示した。わたし達は誰にも負けぬくらい愛し合った。五月十六日埋葬。〟
〝当然尊敬を受けるべき、愛情の深い、わたしを愛してくれたクラウヂウスへ。彼はキリストにあって約二十五年間生きた。〟
「ここには愛すべき父親の作品がありますね。」
とマーセラスは言って次のような文句を読んだ。
〝ローレンスから彼の最愛の子、一月二十日に、み使いたちに連れ去られたセベリウスへ。〟
「それからこれは妻からのですね。」
〝ドミナチウス――平和のうちに。レアがこれを建てた。〟
「そうです。」
とホノリウスは言った。
「イエス・キリストを信じることによって、(それをある人は〝宗教〟とも言うでしょう)信者は聖霊から分け与えられる新しい神の性質を受け取ります。聖霊はまた、信者に神の愛を植えつけます。神の愛は信者が友人や親族に対して、もっとこまやかな愛情を持つようにしむけます。古いアダムの性質は残りますが、発展しない、いや発展出来ないのです。」
(昨日に引き続いて『地下墓所の殉教者』第6章証人の雲の69~76頁からの抜粋引用である。地下墓所は決して人間の住むところでない。ましてや、キリスト者は迫害を恐れて、ここに身を潜めざるを得なかったのであり、その一角はこのような死者の埋葬の場所であった。しかし、この墓のひとつひとつを眺めてゆく中で、新改宗者となったローマ皇帝の忠実な部下である将校、マーセラスは洗礼を受ける決心へと導かれて行く。私もまた碑文の一つ一つ<残念ながら紙面の編成上、ここでは多くのものを省略せざるを得なかったが>を同じ思いで読むことが出来た。そして人の一生と死を思わされた。90歳のご老人が今も生かされている幸いは、キリストを信じ、天の御国に引き上げられるための貴重な時であることを思った。明日はその続きである。)
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