2011年11月4日金曜日

最初のテスト(下)

久しぶりに鳥を追い、辛うじてカメラに納まった一羽。慧眼の諸子、名前の教示を!
一週間ほどたったある晩、仕事を終え、部屋に帰ってくると、彼は出発の準備をしていた。これ以上、私の好意にあまえてはおれないと言ったが、この12月の寒空に、しかも、一文なしで、いったいどうするつもりだろう。単刀直入に、もしや私が何か気にさわることをしたので、突然、こんな夜中に出かける気になったのではないかと聞いた。

彼の唇は震えはじめた。そして満身の力をこめ、「いいえ、全然反対です。あなたがあまりに親切にして下さるのでこれ以上ご好意にあまえ、いつかあなたを大きな危険にまきこむことになっては、申しわけないのです」と答えた。「それはいったいどういうことですか」と尋ねると、初めて、実のことを語りだした。彼は東部のある大学の総長の息子であるが、突然ある事情のため、秘密で家出してきたのであった。その理由というのは・・・ここまで言って、彼はまた身を震わした。彼の話によると、好奇心から、たいへんなあやまちを犯したという。たった一度だけだが、遊里に足を踏みいれ、その結果、梅毒に感染したというのである。それで彼はお父さんの名誉や責任ある地位を思うて、家出をしてきたが、これ以上いっしょにいて、私にまで病をうつすような危険にさらすことはできない・・・と言った。

このことは、私にとって一つのテストであった。このテストのために、私は天職が与えられる時期が遅れていたのだとおもった。この青年を救うために、神の器として役だつのでなければ、外国の青年に新生命をもたらす運動などはない、あるいは私が外国においても、こうした場合、必要なら、生命をも惜しまぬ覚悟ができているかどうかを、確かめるためであったのか。いずれにせよ、私の道程は、まさに一つである。それで部屋の錠をおろし、その青年に、むろん今夜も一つのベッドで寝ようと言った。

朝になって、彼に医師の診断は受けたのかと尋ねた。受けたと言う答えだった。その医師は、お父さんの信用する医師かと重ねて聞いてみたところ、「いいえ、お父さんの知っているような医者にかかろうものなら、すぐお父さんに知れてしまいますよ」と答えた。それで私は市内で知っている、あるクリスチャンの医師に、紹介状を書いて精密検査を頼んだ。そして青年が、まだ途中にある間に、医師に電話で詳しい事情を話し、彼の診断を封書にして持たせてほしいと依頼した。

半日ののち、彼は帰ってきて、私に医師の手紙を渡した。私は恐れと希望が錯綜した気持ちで、その封を切った。精密検査の結果、梅毒感染の事実なしという診断であった。彼が、はじめにかかった医者は、秘密治療や闇商売で、多額のお金を患者から巻き上げようとした、インチキ医者であったことが分かった。無言で、その手紙を彼に見せた。そのとき、私の顔色を見ていたら、それを読む必要もなかった。これまで悪魔にとりつかれていたような、彼の顔は瞬間、別人の顔に変わった。

「ど・・・ど・・・どこに電信局がありますか」
 
彼は、さっそく家へ電報を打った。そして夜までに家から、返信がきて帰宅の旅費が届けられた。それとほとんど同時に、一通の手紙を入手した。その手紙は、私に日本への門戸を開き、私の幻の町で、近江兄弟社を創設させる道をつけてくれたのであった。

(『失敗者の自叙伝』一柳米来留 William Merrell Vories Hitotsuyanagi著80〜82頁より。以前ヴォーリス氏の働きについては彼の一番弟子、かつ同労者とも言うべき吉田悦蔵氏の「近江の兄弟」をこのブログの始めに数回ご紹介したが、中断した。それは引用者に考えるところがあったからである。それはヴォーリス氏の働きは初期はともかく、八幡商業の英語教師の道を追われた後、建築設計を始めとする事業に邁進して一人の人のたましいのための働きがお留守になったのでないか、という疑問があったからである。いや、彼自身ほんとうに聖霊の働きをどの程度自覚しているのか、当時読み始め現在も「泉あるところⅢ」として訳業を展開しているオースチン・スパークス氏の生き方と照らし合わせて疑問を覚えたからである。ところがこの知人から貸与していただいた本を最初家内が読み、巻措くあたわざる状況を見、私も手に取ってみて、その内容に驚き、自分の皮相的な見方を恥じざるを得なかった。外国人が異国にあってその地に骨を埋める、それは並大抵のことではない、神の後押しが彼にあったからできたみわざであった。続篇の引用でさらにそのことを示すつもりである。「人が友のためにいのちを捨てるという、これよりも大きな愛はだれも持っていません」新約聖書 ヨハネ15:13「私たちがまだ罪人であったとき、キリストが私たちのために死んでくださったことにより、神は私たちに対するご自身の愛を明らかにしておられます」ローマ 5:8

0 件のコメント:

コメントを投稿