2023年1月24日火曜日

『受肉者耶蘇』(2)降誕

3 処女より降誕

 このような人物(引用者註:神のふところにおられたイエスが人間としてお生まれになった方だということ)の誕生が他に類例のないことであるのは驚くには足りません。イエスは神の御手による新たな創造、天来の人物、第二にしてまたさらに偉大なアダムとして処女の胎内に、聖霊によって宿られました。その母マリヤはナザレの住民で、大工を生業とするヨセフと言う者と婚約しました。もし伝説が正しければ、彼はマリヤよりもはるかに年長でした。彼は親切な人物で、マリヤの容態を発見するや、できる限り、マリヤの恥を包むため、ひそかに破談して赦そうと考えました。ところがその目的を実行するのに先立って、驚くべき真理を幻によって示されたのです。

4 戸籍調査

 マリヤの臨月がまさに近づいて、わずらわしく考えられたにもかかわらず、なお、実は神の計画によって、夫ヨセフに伴われ、遠い旅に上らなければならないことになりました。政治に巧妙な皇帝アウグストはローマが誇って『全世界』と称したユーフラテス川から大西洋に及び、ブリテンからナイルの上流にわたりあらゆる征服した地方及び貢物を献げる諸王国を統治する大帝国内に、14年目ごとに一回、人口ならびに財産の調査を命じました。

 ユダヤがもし、後年のように一属地に過ぎなければ、住民はローマの規定に準じて、現在の場所で戸籍に登録されるはずであったが、当時はまだ一王国とみなされていたので、ユダヤの規定によって、それぞれ祖先発祥の地に赴いて調査を受けることになりました。

「ヨセフ、マリヤ、ベツレヘムに赴く」

 ヨセフは元来『ダビデの家、その血統に』属するので、ナザレから三日行程にあたるダビデの町ベツレヘムに赴くことになりました。マリヤの容態がこのようであるにもかかわらず、好奇心と悪意をもって眺める郷里の人々の間に、この特別の事情にある処女を残しておくには忍びず、ヨセフは彼女を伴って出発しました。

「救い主の降誕」

 ベツレヘムに近づいた頃マリヤの苦痛は襲ってきました。そのあたり商隊の宿舎に並んで、旅人の便宜を計る、東洋地方によく見る粗末な建物が見すぼらしく設けられていました。前庭の広場に家畜を繋ぎ、周囲の壁に沿って床をつけ、屋根を設けて、それをいくつにも区画して、旅人に宿るに任せたのです。時あたかも旅客がかなり多くなり、部屋は人で一杯だったので、マリヤはやむを得ず、牛やロバやラクダの類に混じって、前庭へ、秣(まぐさ)を褥(しとね)に代えて足を休めるほかはありませんでした。ここでマリヤは嬰児を産み、その嬰児のゆりかごとしては馬槽(まぶね)を用いたのでした。

 これこそまことに歴史に現われた類いないアイロニーの一例であります。すなわちローマがアラリック王の略奪にあった時(※)、帝都の貴族は男も女も競いつつ難をこの一小邑(しょうゆう)ベツレヘムに避け隠れたのであります。ところがまた自ら知らずして、この大帝国が栄光の主のゆりかごにと馬槽を献げる光栄に浴したこの神聖の小邑は、帝国滅亡の時に、家なく食なき帝都の敗残者に隠れ家を提供したのでありました。

※引用者註:410年のローマ略奪を指す

彼らがそこにいる間に、マリヤは月が満ちて、男子の初子を産んだ。それで、布にくるんで、飼葉おけに寝かせた。宿屋には彼らのいる場所がなかったからである。(新約聖書 ルカの福音書2章6節〜7節)

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