「牧羊者の群」
いわゆる全世界の主アウグストは、金色輝く宮殿にあって、そのローマ大帝国が滅亡して、その栄華も過去の名残となった後に、彼が侮蔑するユダヤの国に、その御名は日とともに長く輝き、その領土は四海に及ぶようになる君主が降誕するとは夢にも悟らなかったのであります。神は賢者、達者にこれを隠して幼児にあらわされたのであります。
この夜、牧羊者の一団は、その昔ダビデが父の羊を守り、アモスがいちじく桑の樹を作りながら家畜を率いたベツレヘムの郊外で、羊の群れを監視していました。彼らは元来大胆不逞、世をも人をも物とせぬ連中であります。聖書のうちには美わしく描写されるこの職は、後世まことに賤しいものになってしまいました。ラヒ・ゴリオンは「息子をロバの馭者、ラクダの馭者、理髪師、水夫、牧羊者、旅館の番頭にならせるな、彼らの職は盗賊の業に異ならない」と言いました。
ところが主の降誕の布告は先ずこの牧羊者に授けられたのであります。彼らが星影燦々たる蒼空の下に頭を垂れながら、歌と笛とに、徹夜の無聊(ぶりょう)を慰められている時もあれ、天使は頭上に現われて、彼らが驚き騒ぐのを鎮めながら『きょうダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました』との喜び極まる音信(おとづれ)を伝えました。これこそまことに歓喜の音信、驚くべき祝福の音信であります。
イスラエルに永い年月約束され、また彼らがこの永い年月待ち望んだ救い主は降誕されたのであります。その上、卑しめられていた牧羊者をすら贖わんがために降られたのであります。これこそ後年やがて示されることになる恩寵の尊い預表でありました。この伝令の天使は天より翻り降り、聖都の空を過ぎようとして、先ず荒野の漂泊の民である下賤の牧羊者を訪れ、救い主は義しい人を招くのでなく、罪ある者を招き、失われた者を求めて救わんがために降られたことを布告したのであります。
4 天使の歌
天使はさらに言います。『あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ておられるみどりごを見つけます。これがあなたがたのためのしるしです』と、同時に天は開かれ、蒼空は天の万軍をもっておおわれて天籟(てんらい)に和しつつ、
『いと高き所に、栄光が、神にあるように。
地の上に、平和が、
御心にかなう人々にあるように』
との歌が聞かれたのであります。しばらくして幻は消えました。牧羊者は野を辿って走り求め、天使のことばどおりの嬰児を発見することができました。
羊飼いたちは、見聞きしたことが、全部御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。(新約聖書 ルカの福音書 2章20節)
0 件のコメント:
コメントを投稿