クリスマス ローズ花瓶に 挿す心 |
ダニーは小走りに坂道を登って行きました。クラウスは、クリスマスのネコでしたが、雪の中を歩くのは大きらいでした。その日は、よく晴れた、気持ちのよい日でした。春の日ざしが雪をとかし始め、谷川の両がわの原っぱには、もう青々と草が生えしげっていて、牛が草をたべていました。さらに坂道を登って行くと、そこでも雪が暖かい太陽に照らされて、とけ始めていました。そして所どころに薄黄色の草が現れていました。谷川は、雪どけのために水かさが増して、緑色の水があふれそうになっていました。
クラウスは、どんどん歩いて、とうとう野原のはしの、石垣の所まで来ました。
この石がきの向こう側には、岩のごつごつ突き出た谷があり、その底には、急流がうずをまいていました。夏には、岩々はおとぎの庭のようでしたが、今は、茶色の岩肌をむき出しにしていました。
クラウスは、石垣の上で、春の光をあびながら毛をふくらませていました。それから、体中をなめ始めました。クラウスは、雪のように真っ白できれいでしたから、そんなにしなくてもよかったのですが。
ダニーは、草のもえ出た所をさがし歩いては、花をつみました。野原にはクロッカスがはなやかに咲いていました。ダニーは、クロッカスも好きでしたが、一番好きなのは高山植物でした。高山植物は、雪のとけるのを待ちきれないで、こおりついた地面をつきやぶって出てきていました。か弱いくきは、まだ氷に閉ざされていて、花は、ふちかざりをした、むらさき色の鐘のように下の方に垂れ下がっていました。
ダニーは美しいものが大好きでした。ですから、この、花のいっぱい咲いている野原にいるのが、うれしくてたまらなかったのです。太陽は照りかがやき、花はダニーにほほえみかけているようでした。ダニーは、雪の下の、ほらあなの中に住んでいるという化け物の話を思い出しました。かれは、真っ白なあごひげを生やし、真っ赤なぼうしをかぶっています。そして、たいそういたずら好きで、時々だれも見ていない時に出て来て、花のベルをふるのですーーアンネットが、そう言っていたのです。
ですからダニーは、高山植物の群がっている所に、しのび足で近づいては、その垂れ下がった花をじっと見つめるのでした。それでダニーは、足音が近づいて来るのに気づきませんでした。とつぜんダニーは、ハッとおどろいて顔を上げました。
クラウスは、どんどん歩いて、とうとう野原のはしの、石垣の所まで来ました。
この石がきの向こう側には、岩のごつごつ突き出た谷があり、その底には、急流がうずをまいていました。夏には、岩々はおとぎの庭のようでしたが、今は、茶色の岩肌をむき出しにしていました。
クラウスは、石垣の上で、春の光をあびながら毛をふくらませていました。それから、体中をなめ始めました。クラウスは、雪のように真っ白できれいでしたから、そんなにしなくてもよかったのですが。
ダニーは、草のもえ出た所をさがし歩いては、花をつみました。野原にはクロッカスがはなやかに咲いていました。ダニーは、クロッカスも好きでしたが、一番好きなのは高山植物でした。高山植物は、雪のとけるのを待ちきれないで、こおりついた地面をつきやぶって出てきていました。か弱いくきは、まだ氷に閉ざされていて、花は、ふちかざりをした、むらさき色の鐘のように下の方に垂れ下がっていました。
ダニーは美しいものが大好きでした。ですから、この、花のいっぱい咲いている野原にいるのが、うれしくてたまらなかったのです。太陽は照りかがやき、花はダニーにほほえみかけているようでした。ダニーは、雪の下の、ほらあなの中に住んでいるという化け物の話を思い出しました。かれは、真っ白なあごひげを生やし、真っ赤なぼうしをかぶっています。そして、たいそういたずら好きで、時々だれも見ていない時に出て来て、花のベルをふるのですーーアンネットが、そう言っていたのです。
ですからダニーは、高山植物の群がっている所に、しのび足で近づいては、その垂れ下がった花をじっと見つめるのでした。それでダニーは、足音が近づいて来るのに気づきませんでした。とつぜんダニーは、ハッとおどろいて顔を上げました。
ルシエンがダニーのすぐ後ろに立っていたのですーー意地悪そうな顔をして、勝ちほこったように、目を不気味なほどかがやかせて。
ルシエンは、前にダニーを泣かせた時、アンネットにぶたれたのを忘れてはいませんでした。あの時からずっと、ルシエンは、仕返ししてやろうと思っていました。それで、ダニーがひとりで野原にいるのを見て、急いでやって来たのです。
ルシエンは、前にダニーを泣かせた時、アンネットにぶたれたのを忘れてはいませんでした。あの時からずっと、ルシエンは、仕返ししてやろうと思っていました。それで、ダニーがひとりで野原にいるのを見て、急いでやって来たのです。
悲しいことにこんなに自然豊かであっても、人間の悪はそれを台無しにする。それがこの後半場面に出て来る、短いことば「仕返しをしてやろう」である。少年ルシエンは同級生のアンネットの弟ダニーが何よりも大切にしていた白猫クラウスを取り上げようとする。そうさせまいとしたダニーと揉み合いになり、その結果ダニーは谷底に落下する。明らかにルシエンが目論んでいたアンネットやダニーに対する仕返し以上の変事が起こってしまったのだ。幸いというか、いのちは助かったが、ダニーは足を骨折して不具の身となる。こうしてルシエンにとっては、自らが犯したとんでもない間違い、ダニーの足を、元通りにすることができないという大きな重荷に最後まで苦しめられる。
昨日の場面こそ、その癒しがたいくるしみを抱えたルシエンが森の中で経験したことの始まりを記した個所であった。彼はその後責めてものダニーへの罪滅ぼしのために、自らの腕に任せて様々な彫刻をつくっては、彼に届けようとするが、今度はダニーの姉のアンネットの「仕返し」の心ない悪だくみで、ことごとく駄目になる。そんな時、森のはずれの小屋に住んでおり、人々からは「山のおじいさん」と言われ、変人扱いをされているひとりの孤独な老人に出会う。その老人は木彫りの名人であったが、同時に過去に強盗を犯し刑務所暮らしを経験したおじいさんであった。そのおじいさんからルシエンは大切な話を聞かされる。第十三話「おじいさんの物語」からの抜粋である。同書179頁より。
君は、もう一度はじめからやり直す方法はないと言ったね。しかし、それはまちがっているよ。わしは、君よりずっとずっと重い罪をおかした。そして、君のような少年には、考えることもできないような苦しい目に会ってきた。しかし、わしは、神さまがわしをゆるしてくださったと信じているんだ。わしは盗んだ金を返そうと思って、一生けん命働いている。そして、神さまがお喜びになるような人になろうとつとめているんだよ。わしは、これだけのことしかできない。だれだって、これだけしかできないだろう。すんでしまったことは、みな神さまにまかせておけばいいんだよ。
さて、この話の続きはどうなるのだろう。明日の話はその最終回である。次のみことばは、アンネットがおばあさんから聞くみことばである。第四話「アンネットのちこく」53頁に記されている。
怒っても、罪を犯してはなりません。日が暮れるまで憤ったままでいてはいけません。(新約聖書 エペソ人への手紙4章26節)
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