2012年4月29日日曜日

田圃に働く少年でも・・・

しかしそれ(=聖書翻訳)をなすことは如何に危険なことであるか。法王は法律をもってそれを禁じている。実にそれは当時においては何にも勝る冒険である。これに比しては大西洋を横断して新大陸を発見することなどは冒険ということは出来ない。彼は今まで幾度か決心しつつ、幾度か断念した。しかし今や猛然とその目的に向って進まねばならなくなった。彼を導く摂理の手はそれを彼に強いるのである。チンデルはこの聖書翻訳の決心をした心境について、後に訳した『モーセの五書』の緒論の中に次のごとく言っている。

私は経験によって、聖書をわかりよい母国語に訳して国民にあたえ、その過程と秩序と意味を知らしめる以外、彼らをいかなる真理にあらしめることも不可能であることを認める。そうしなければ、彼らに教えられたいかなる真理も、真理の敵は再びこれを蹂躙する。あるものは諸君が黙示録9章で読む底なき坑の煙、すなわち外観のみととのえる詭弁学的理論と、彼らの造った伝統(それは聖書には何らの根拠なきものであるが)をもって、また他の者は聖書を瞞着して、それはもしも聖書の過程と秩序と意味を総合的に観れば、とてもそんなふうには解せられないような曲解をもって真理を蹂躙する。

 一語一語、読む者の肺肝を衝く言葉である。聖書の曲解! これほど恐るべきことはない。虚心坦懐、真実なる心をもって読めば、決して解することの出来ないような聖書の解釈をして、自己自派の主義主張を弁護して、聖書の真理を蔽う、これほど大なる罪悪が又とあるであろうか。チンデルは更に語をついで言う。

彼らは、諸君に聖書の知識を与えまいとし、母国語の聖書を持たせまいとし、世界を暗黒に閉じおくことに一致している。それは彼らが諸君を暗黒の中に置き、彼らの卑賤なる欲望と、高慢なる野心と、満足を知らぬ貪欲を満たして、彼らの名誉を王以上、皇帝以上、然り、神以上におくために、空しき迷信と虚偽の教理をもって人民の良心の中に座せんとするためである。彼らは聖書を光明に持ち出すよりも、彼らのいまわしい行為と教理に関して、数千の書を発行する。そして彼らは論理を弄び、互いに論争することによって聖書を曲解し、無智なる人民を迷わしている。故に聖書の意味を単純に明示することによってのみ、彼らを暗黒より救って、職業的宗教家をして乗ずる余地なからしめるのである。この考えが、私を新約聖書を翻訳すべく、決心させたのである。

 彼の聖書翻訳の決心の動機は、ただ母国民に真の福音を知らせたいとの唯一の願望にあった。 何時の時代でも聖書の蔽われた時代は、最も宗教の堕落した時代である。聖書こそ、一人一人がただキリストによってのみ救われることを啓示せる、生命の書であるからである。この聖書を無視して何処に真実の信仰があるであろうか。しかし世の職業的宗教家にとって聖書ほど妨げとなるものはない。これ一人一人が聖書を読めば、かかる宗教家のなしていることが何よりも非聖書的であることを第一に知るからである。そして彼らは人々にそれを読ませないのみでなく、自らも読まず、ただ伝統と教会律のみを固守していた。その頃チンデルがある牧師と会った時、彼は「我らは神の定律よりも法王の定律を重んぜねばならない」と言った。それに対してチンデルは「私は法王の定律を軽んずる。若し神が私をながらえしめば、数年ならずして田圃に働く少年でも、君よりもよく聖書を知るに到らしめるであろう」と言った。

(『ウイリヤム・チンデル伝』藤本正高著作集第3巻P.429~431所収。"Reading this book will keep you from sin; sin will keep you from reading this book "バンヤンは後にこのように記した。かのウオッチマン・二ーはこのことばを婚約者の聖書に書き留めた。私自身も結婚前、婚約者からこのことば「聖書は私を罪から遠ざけ、罪は私を聖書から遠ざける」と書き記した聖書を受け取った。それぞれ過去のブログで紹介した通りである。しかし、大切なことは私自身が今もつねに聖書に心を開いているかだろう。この世の背後にいて主の御わざを見えなくさせようとする悪魔は法王を用いるだけではない、私の心を絶えず聖書から遠ざけようとするのだ。)

ダビデはサウルに言った。「しもべは、父のために羊の群れを飼っています。獅子や、熊が来て、群れの羊を取って行くと、私はそのあとを追って出て、それを殺し、その口から羊を救い出します。それが私に襲いかかるときは、そのひげをつかんで打ち殺しています。このしもべは、獅子でも、熊でも打ち殺しました。・・・「獅子や、熊の爪から私を救い出してくださった主はあのペリシテ人の手からも私を救い出してくださいます。」(旧約聖書 1サムエル17:34〜36、37)

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