2022年12月11日日曜日

ピラトの前での審問(下)

1655年 レンブラント絵 エッチング・素描作品集より

ところでピラトは、その祭りには、人々の願う囚人をひとりだけ赦免するのを例としていた。……ピラトは、彼らに答えて、「このユダヤ人の王を釈放してくれというのか。」と言った。ピラトは祭司長たちが、ねたみからイエスを引き渡したことに、気づいていたからである。……ピラトはもう一度答えて、「ではいったい、あなたがたがユダヤ人の王と呼んでいるあの人を、私にどうせよというのか」と言った。すると彼らはまたも「十字架につけろ。と叫んだ。だが、ピラトは彼らに、「あの人がどんな悪い事をしたというのか。」と言った。……それで、ピラトは群衆のきげんをとろうと思い、……イエスをむち打って後、十字架につけるようにと引き渡した。(マルコ15:6〜15)

 さすがにピラトは老朽の政治家である。一見してイエスの無罪と祭司長らの嫉妬を見抜いた。恐ろしい罪状を並べての告訴に対する神々しい沈黙。王なるかとの問いに対する簡明大胆な答、などはピラトの訓練された眼に、直ちにイエスの無罪を反映した。

 だから彼は極力イエスを救わんと欲した。が、ついに敗れた。彼が一歩ずつ祭司らの要求に歩を譲ってついに全く譲歩してしまった道程は人が誘惑にまける道程の好適な見本である。最初に寸を譲る者は次に尺を譲り、終わりにすべてを譲る者である。

祈祷
ピラトは寸を譲って尺を失い、悪名を萬世に残して怯懦(きょうだ)の見本となるに至りました。神様どうか誘惑の第一歩において先ず勝利する者とならせて下さい。アーメン

(以上の文章は『一日一文マルコ伝霊解』青木澄十郎著345頁より参考引用し、題名は引用者が便宜的につけた。以下は、クレッツマンの『聖書の黙想』36 死に渡された生命の主 からの昨日の引用の続きの文章である。

 彼(ピラト)はその時、一人のかくれもない、つまり悪名高い囚人を獄舎に入れてあることを思い出した。これはバラバとかいう男で、先だっての暴動では首謀者となって、殺人を犯したのである。この卑劣な犯罪者と、明らかに罪のない無害なイエスとの間にある対照以上にはなはだしい対象をピラトは他に考えつくことができなかった。何故、この二人の者を並べて立たせなかったのだろう。もしそうしていたら、民衆の中には、イエスの方を選ぶだけの正義感と節度がきっとあった筈である。ピラトはイエスを審問したが、何の責めも見出せなかったので、これを民衆自らの選択にゆだねることをほのめかした。しかし、祭司長たちは群衆心理の機微に通じていた。彼らは民衆をけしかけて、何が何でもバラバを選ばせるように仕向けたのである。そこで、ピラトは望み尽きて、力なく尋ねた。

「おまえたちがユダヤ人の王と呼んでいるあの人はどうしたらよいのか」。

 これに対する運命の答えは、苦々しい憎しみの情から生まれた、あの執拗な叫びだった。

「十字架につけよ!」

 迷わされた民衆は野性の獣のように、王の血に渇いていた。彼らは恵みの注がれている日に、イエスを迎え入れなかった。そして、結局はこれを拒否することしかできなかったのである。

 私たちは主を全く拒絶することで終わってしまってしまわないように、主が恵みと真理とをもって私たちを訪れる時は、つまずくことなく、これを迎え入れようではないか。

 ところで、ピラトは何としたものだろう。彼は、イエスは潔白であり、バラバは罪があると知っており、またその通り断言したのである。にもかかわらず、彼は罪人を赦して、罪のない者に罪を申し渡したのである。

 だが、ここには慰めとなる一つの意味深い教えが含まれている。バラバは人類を代表しているのだ。罪なき神のひとり子は私たちの身代わりとなって、罪を宣告された。それは、もし私たちが、神を畏れた者のために死に渡されたおかたを信ずるならば、ただその信仰の身によって、罪なき者とされ、あらゆる罪のとがめから解放される、というおはからいなのである。

 しかし、私たちは、主が十字架の運命に定められ、卑劣な兵卒や僕たちから、さげすまれ、嘲られ、その神聖さや汚れなさまでが笑いものにされ、王であると言われたあの正当な主張さえも、けがらわしい戯れの種にされたのを見る時、恥ずかしさと自責の念で、どんなに、胸がつまることだろう!

 私たちはひざまずいて、主をたたえ、私たちの主であり、神であるおかたを歓迎することを誇りとしよう。

  祈り
 無情なる嘲り人は汝をかこみ、
  いとわしき言葉もて、汝を迎え、
 刺痛き茨もて、汝に冠せり。
  主よ、汝はすべてのはずかしめを忍びたまい、
 汝のものとて、我を認め、
  栄光もて、我をよそおいたまいぬ。
 おお、親しきイエスよ、
  限りなき、限りなき感謝こそは
 汝に捧ぐるものなれ。
       アァメン
 )

0 件のコメント:

コメントを投稿