2012年5月15日火曜日

自己に死する日まで

神は真実であり、その方のお召しによって、あなたがたは神の御子、私たちの主イエス・キリストとの交わりに入れられました。(新約聖書 1コリント1:9)

 今日の火曜の学びは引き続いて「伝道活動における家庭集会の大切な意味」であった。ベックさんは上掲のみことばのあと、次のように語られた。

 ここにも書かれているように、最も大切なのは主の真実です。主と交わりを保ち、常に主と共に歩むために、私たちは召し出されました。主が私たちを導こうと思っておられる道は、十字架まで続いています。自分のいのちを愛する者、自分のものに固執する者、自分自身を否定する備えのない者は、霊的なかたわになってしまいます。主イエスが私たちの生活の中で第一になっているでしょうか? 自己否定なしにはいかなる復活のいのち、すなわち、主のいのちの現われもありえません。今日大きな問題になっているのは、十字架のないいわゆる「キリスト教」が宣伝されていることです。・・・・

 家に帰って、藤本正高さんの講筵に連なった小林さんの1939年の手紙を紐解いてみた。小林さんもまたそのように生きようとしておられたことがわかった。折しも小林さんの遺児であるお嬢さん(と言ってももう初老の方であるが)が先に召されたご主人との連作展『天と地の二人展』を5月24日から30日まで開かれる。この機会にお父様のお手紙を再び紹介する。(1939年9月1日にはドイツ陸・空軍がポーランドを侵攻いわゆる第二次世界大戦が始まっている。同月3日には英・仏がドイツに宣戦布告をしている。)

 八月二十二日附御手紙拝見、有難うございました。皆様御元気で夫々夏の収穫を得られたことと存じます。当地では戦争最中とは申せ今の処何と云うこともなく、日本人に対する人気も悪いことはありません。夜は燈火管制で少しでも光がもれると怒られます。更に毎日、何時でも外出するときは必ずガスマスクを携帯せねばなりませんが、之はイギリス人の神経が尖りすぎている故ではないかと私共には思われます。

 時節柄当地の模様は遠慮しますが、仕事の多忙は甚しくあります。言葉もよく判らぬうちに録々(ろくろく)として二ヶ月を送ってしまいました。「イギリスに三年居たら馬鹿になる。」とは当地の日本人がよく申す言葉でありますがそんな気がいたします。

 到着早々こんな事で何のために来たのかと思うことさえあります。仕事のことなら日本の方がよく出来ているのではないかと思います。イギリス人は生活を楽しみます。日本人の様に真正直に働くことはいたしません。一般のイギリス人については今日では学ぶべきものは少なく、英国は下り坂を急ぎつつある様に思います。然し乍ら過去に於て、又今でも或る人々にはよいものが揃っているのでありましょう。英国民をして兎に角偉大ならしめた素質は今日では割合に少ないのではないかと思います。一方流石に美点もありますが、本当のことは矢張り数年住まなくては判らぬ様な深さも感じます。

 何処に行っても、何の様な人種にも希望を持って福音の種を運び、終生を戦い通した偉大なパウロを今更の如く大きく思います。日常の仕事に追われてそこに迄思い及び得ない自分の不甲斐ない姿を新しく発見して居ります。そして折角来たのでありますから、古い英国のよいもの、現在もあるよいものを吸収してはゆきたいと思って居ります。
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 道は違っても、自分の為でなく、神様のために、キリストの為に選ばれた筈の基督者が、「自分」から抜け切れず、もがく様は惨めであります。キリストにのみ思をよせ、「如何にしてか福音の伝播を」と日夜心を砕いたタルソのパウロに遭って、弱々しい彼の肉体の内に燃えた火の様なキリストへの熱情をききたいと思います。我等の藤本先生も戦に斃れられた畔上先生の遺著の編輯に大童で居られると思います。「日本は連日暑さつづきの由」ラヂオに入って参ります。

 御体を大切になさる様御鳳声(ほうせい)御願申上ます。
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 地上の生活は苦難の連鎖で、地をはなれる日まで憩はあるべからずと思いつつも不平をもらしては後悔して居ります。然しながら此の滞英期間中に少しでも役に立つ器となれる様更に鋭い主の轆轤(ろくろ)の歯を待ちたいと祈って居ります。肉をさかれ、骨を砕かれして、主の鋳型に嵌(はま)るまで、そして自己に死する日まで、その為に肉体は亡ぶるとも鍛えられる者は幸であると思います。そして現実の弱き惨さは世に又となき程でありながら、それでも兎にも角に主にしがみついて行ければと願って居ります。
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 岩井さん、遠藤さん、その他の方々によろしく御願申上げます。検閲で当地の模様は詳しく申上得ませんが、私は何等変りなく元気で居ります。当国でも為替管理やら物資統制やらが始まって居ります。御申越のものをお送り申上ましたが到着は遅れはせんかと思います。御健康を祈ります。

  九月十七日        小林儀八郎

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